2020/12/30 着物ふく
着物福 結城紬③
その日は突然やってきた。
その日は、男の人の奥さんが店番をしていた。
奥さんは、着物のことは余り詳しくない。
お昼を少し過ぎた頃、わたくしは、確かに新しい管理人の声を聞いた。
新しい管理人は、店番の奥さんに言ったの。「良い博多帯があるって、店長に聞いたんだけれど?」
嘘でしょーーーーーーっ!!あり得ない!!
店番の奥さんは新しい管理人に博多帯を見せた。
でも、新しい管理人はその博多帯は気に入らなかったみたい。そうよ、博多帯買っている場合じゃないのよ。わたくしを買うのよ。
・・・・・・ところが、新しい管理人ったら、今度は絽綴れの袋帯を見始めた。店番の奥さんに「良い絽綴れね」とか言っていた。
奥さんは店長に電話をして、絽綴れの袋帯のことを聞いていた。
わたくしはあきらめないわ。この時ばかりは精一杯の根性を出したの。そして、店番の奥さんに言わせた。
「そういえば、良く分からない結城があるんですけど、見てもらえませんか?」
やっと、新しい管理人を振り向かせることができた!まったく、人間は手のかかること!
新しい管理人はわたくしに触れ、感触を確かめた。「確かに本結城ですね」
そして、わたくしをしばらくみつめて、はっと目を見開いた。そりゃそうよ。あなたはわたくしの新しい管理人ですもの。分かるでしょ。
「これは・・・店長と話をさせてもらえませんか?」
何日かして、新しい管理人が再び店に来た。今日は店長がいる。
新しい管理人は店長に言った。
「この結城は、百亀甲より明らかに細かい絣です。それに、糸も細い。百六十亀甲だと思いますが、店長はどう思いますか?本気で、この値段でこの結城を売るつもりですか?」
店長はびっくりしてわたくしを凝視した。ごめんなさいね。ちょっと意地悪が過ぎたわね。
でも、もちろん売るわよね。店長はわたくしにこの値段をつけて店に置いたんだもの。売買契約の「申込み」ってやつよ。新しい管理人が承諾したら売買契約は成立。
わたくしは、新しい管理人のところへ行くの。
しばらくして、店長はあきらめたように言った。「クリスマスプレゼントです」
メリークリスマス!店長。良いお年を。
わたくし、ちょっと洗い張りの旅に出るわ。そして、新しい管理人のサイズに仕立て直してもらうの。今シーズンには間に合いそうにないわね。
来シーズンはわたくしを身にまとってお出かけしましょうね。ただし、わたくしにふさわしい、とびっきりの、最高の人に会うときだけよ。
え?今更、「この着物を着る気ですか?何か事故があったら大変なことになりますよ!!!」って店長が叫んでいる・・・。
店長、着物は着る物よ。タンスの肥やしじゃないのよ。着ないでどうするのよ。当たり前でしょ。
いいこと、新しい管理人。わたくしが帰ってくるまで、しっかり働いて、管理費をわたくしに貢ぐのよ!