2019/01/07 弁護士のひとりごと
レビンさん-急性腎不全と闘った猫④
こうしてママは、べんごしになった。
まい日、いそがしく、はたらいている。
ときには、ぼくの、ばんごはんのじかんにも、かえってこないことがある。
ぼくは、さみしくても、おなかがすいても、おひるねをしながら、じっとまった。
まっていれば、かぞくのだれかが、ごはんをくれるんだ。
いつのまにか、ぼくは12さいになった。にんげんでいうと、64さい。もうけっこうなおじさんねこだ。
まーくんは22さい。もうママよりも、パパよりも、おおきくなった。
4がつ、とつぜんぼくはごはんがたべられなくなった。
「あんなに、くいしんぼうの、レビンが、おかしいわね」
ママは、しんぱいそうに、いう。
ぼくは、1かげつで、ずいぶんやせてしまった。
そして、ある日、ママとパパは、ぼくを、「びょういん」へ、つれていった。
「びょういん」は、しらないねこや、犬のなきごえがする。くすりのへんなにおいがする。いやなばしょだ。
「びょういん」には、「せんせい」という、わるいにんげんがいる。
「せんせい」は、ぼくのからだに、するどい、はりをさしたり、おしりのあなに、ぼうをさしこんだりする。
きっと、ママは、ぼくが、ごはんをたべないから、おしおきをしているんだ。
・・・ママ、ぼく、ごはんをたべるから。ちゃんと、たべるから。「びょういん」だけは、かんべんして~。
このとき、「せんせい」は、ぼくのおなかに、きもちのわるい、きかいをおしあてた。
「じんぞうの、きのうが、だいぶおちています。このままじんぞうのきのうがおちていくと、『まんせいじんふぜん』になり、ガリガリにやせて、しんでしまいます」
そのひは、おくすりと、「りょうほうしょく」という、ごはんをもらってかえった。
それから、ぼくは、ときどき、「びょういん」へつれていかれた。
「せんせい」は、そのたびに、ぼくのからだに、するどい、はりをさしたり、おしりのあなに、ぼうをさしこんだりした。
ぼくは、ねこのぎゃくたいに、はんたいする。だんこ、はんたいする!ぜったいに、いや~!!
ところで、ぼくは、「せんせい」にもらった、りょうほうしょくのごはんがきにいった。
もりもり、もりもり、ごはんをたべた。
ぼくのたいじゅうは、あっというまに、もとどおりになった。
「このじょうたいで、なぜ、こんなにふとれるのか、まったくわかりません」と「せんせい」がいう。
「そもそも、ふつうのねこちゃんは、じんぞうのりょうほうしょくが、だいきらいなものなのですが」
ぼくは、ふつうのねこじゃないからね。誇りたかいねこなんだ。「せんせい」のいうとおりなんかになるものか!
1ねんごの4がつ、ぼくのじんぞうのすうちが、すこしよくなったと、「せんせい」がいった。
ママは、「よかったわね。よかったわね」といってわらった。
ぼくは、ママのわらうかおをみて、とてもうれしかった。
ところが、5がつのはじめ、とつぜん、ぼくは、よなかに、はいた。なんども、なんども、はいた。
きもちがわるい。ぼくはぐったりした。
しんぱいしたママとパパは、ぼくを「びょういん」へつれていった。
「せんせい」は、ぼくのからだに、するどい、はりをさしたり、おしりのあなに、ぼうをさしこんだりした。
「びょういん」からかえっても、ぼくのちょうしはわるいままだった。
ぼくはぐったりしたままだ。ごはんは、とてもじゃないけれど、たべられない。
ママとパパは、また、ぼくを「びょういん」へつれていった。
それでも、ぼくのちょうしはわるいまま。ママのかおは、まっさおだ。
もういちど、ママとパパは、ぼくを「びょういん」へつれていった。
そこで、「せんせい」は、ぼくのからだにはりをさし、ちをぬいた。
そして、「せんせい」は、はじめて、ぼくの、じんぞうのすうちが、そくていふのうなほど、あがってしまっていることに、きがついた。
「きゅうせいじんふぜん」だ!
ママとパパは、「せんせい」から、ぼくのいのちが、あぶない、とつげられた。
ママとパパは、「せんせい」から、ぼくが、わるいものを、たべたのではないか、と、なんども、きかれた。
ねこは、かんようしょくぶつや、ふとうえき、など、どくになるものをくちにすると、「きゅうせいじんふぜん」になることが、あるらしい。
でも、ママと、パパは、ぼくがかじるとあぶないものは、家にはもちこまないよう、ふだんからきをつけていた。
「せんせい」に、なんども、なんども、きかれたけれど、おもいあたるふしがない。
そのひ、ぼくは、ママとパパといっしょに、家にかえしてもらえなかった。
「せんせい」は、ママとパパをかえしたあと、ぼくのつめをきった。まえあしの毛を、そった。
そして、かたいエリザベスカラーを、ぼくのくびにつけて、まえあしに、はりをさして、ほうたいをまいた。
そのみっともないかっこうで、ぼくは、つめたいてつごうしのなかに、いれられた。
ぼくのしたの、てつごうしのなかでは、ぐあいのわるそうな、犬の、いきづかいがきこえる。
こんなところはいやだ。家へかえして!かぞくのところへかえりたい!!
ぼくは、ふだん、ぜったいにだすことのない、よだれを、たらしながらさけんだ。
つぎのひのあさ、ぼくのじんぞうのすうちは、すこしだけさがった。
でも、そのまたつぎのひには、またあがってしまった。
ママとパパがやってきた。
パパは、よだれだらけで、しょうすいしきった、ぼくをみていう。
「もう死んでしまうのなら、せめて、家にかえしてあげよう。こんなところより、家で死ぬほうが、レビンにとって、しあわせだよ」
「せんせい」も、ママにむかっていう。
「そうしてあげたほうが、よいかもしれません」
でも、ママは、ママだけは、くびをよこにふる。いまにも、なきそうなかおで、よこにふる。
「もうすこしだけ。もうすこしだけ、ちりょうをしてください」
その日のよる、神さまが、ぼくにはなしかけた。
「どうだ、飼いねこのつとめがなにか、しゅくだいのこたえは、わかったかね?」
・・・・・・わからない。ちじょうにおりて、13ねんあまりたった。それでも、ぼくには、しゅくだいのこたえが、わからない。
「おまえは、どうしたい?このまま、天にのぼるかね?」
ぼくは、ママのなきそうなかおを、おもいだしながら、こたえた。
「ぼくは、しゅくだいのこたえが、わからないまま、天にのぼるのはいやだ。もうすこし、ちじょうに、いたい」
「やれやれ、しかたがない。だが、おまえが、いのちをながらえるなら、そのかわり、おまえは、これからも、つらいおもいを、しなくてはならないのだよ」
かまわない。かまわない、神さま。ぼくは、もっと、ママのわらうかおがみたい。つらいおもいをしてもかまわない。
もうすこし、ちじょうにいさせて。
よく日から、ぼくのじんぞうのすうちは、すこしずつさがった。
そして、なん日かして、ぼくは、よるのあいだだけ、家にかえることになった。
そして、しばらくして、ひるまも、「びょういん」にいなくて、よくなった。
家にかえるころには、ぼくは、すっかり、かおつきがかわってしまった。
よだれだらけになった、かおとくびは、毛がぬけて、ハゲてしまった。
家にかえっても、ごはんがたべられず、どんどんやせてしまった。
いちばんのダメージは、ひだりうしろあしにできた、とこずれだ。「せんせい」は、「これは、ながく、かかります」といって、ほうたいをまいた。
パパとママは、いちにちおきに、ぼくを「びょういん」へつれていって、ほうたいをかえてもらった。
ママは、ごはんがたべられないぼくを、しんぱいして、「びょういん」でもらってきた、えきたいのごはんや、いつものごはんを、すりつぶして、おゆでといたものを、たべさせてくれた。
バスタオルで、ぼくをくるみ、シリンジで、ぼくの口に、いれるのだ。
まいにち3かい、ながいじかんがかかる。
ぼくが、はいてしまっても、ママはくじけない。
どんなに、しごとがいそがしくても、けっして、あきらめない。
ぼくは、すこしずつ、げんきがでてきた。
そして、ある日、おいてあった、ごはんのにおいをかぎ、すこしだけ、たべてみた。ぼくは、ほんらい、くいしんぼうなんだ。
ぼくが、ごはんをたべたのをみて、ママはわらった。うれしそうに、わらった。
ママがわらったのをみて、ぼくもうれしくなった。
そして、8がつ、ぼくは、14さいになった。にんげんでいうと、72さいのおじいちゃんだ。
ママは、うれしそうに、わらった。パパも、うれしそうに、わらった。まーくんは、ちょっと、てれくさそうに、わらった。